生涯を通して栄養療法を主とした統合医療を用いたボクサー犬

○花田道子1、宮野のり子2
ヤマザキ学園大学 動物看護学部 東京都渋谷区松濤2-3-10
動物病院NORIKO 東京都港区西麻布3-19-18-M

要約:
自然分娩とは言え、陣痛微弱、逆子の難産で生まれた白いボクサー犬(♀)が断尾後抗生物質投与により嘔吐頻発し、誤嚥性肺炎を発症。この時点から一切の抗生物質投与を中止。人工哺乳及び離乳食に核酸サプリメントを添加。その後の維持食には冷凍生肉、鶏ササミ缶、k/d缶、にサプリメントとして動物用核酸、不飽和脂肪酸、アミノ酸、ビタミン、ミネラル、を用いることにより、血液検査データに異常値があってもQOLが保て、自己免疫在性咬筋炎、免疫介在性溶血性貧血の際に行った統合医療の効果を上げるとともに、薬剤の副作用緩和にも貢献できたと思われた。
キーワード:栄養療法、統合医療、核酸、サプリメント

目的:
我々は1996年来、核酸をベースにしてその他のサプリメントを食餌に足すことにより、QOLを保ち、身体的・精神的にストレスの少ない治療をめざした統合医療の選択を飼い主へ啓蒙し実践してきた。この度、出生時から死亡時まで一貫して栄養療法を主とした統合医療を施したボクサー犬の生涯を追い、その有用性と飼い主の満足度を紹介する。

材料と方法
患動物:ボクサー犬♀(2002年5月〜2012年4月)。栄養療法:人工哺乳及び離乳食に水溶性核酸サプリメントを添加し、維持食(カンガルー生肉,鶏ササミ缶,k/d缶)にサプリメントとして動物用核酸、不飽和脂肪酸、アミノ酸(大豆たんぱく加工食品)、ビタミン(C,E,B群,A,D,ナイアシン,葉酸)、ミネラル(Fe,Ca,Mg,Zn,Cu,セレニウム)を適宜適量用いた。肥満細胞腫・乳腺腫瘍・エプーリス診断確定時にはメシマコブ熱水抽出物も追加した。薬物療法:自己免疫性咬筋炎および免疫介在性溶血性貧血の際は大学付属動物医療センターを受診し、免疫抑制剤、ステロイド剤、抗生剤等を、甲状腺機能低下症に対しては甲状腺ホルモン剤を投与した。薬物療法には栄養療法を併用した。検査:定期健診および罹患時の外来・入院時には臨床病理検査(血液,生化学,尿,糞便,FNA)、心電図、血圧および体脂肪率を測定した。

結果および考察
生後20日からの誤嚥性肺炎に対しては水溶性核酸で改善。1歳時の外耳道炎・細菌性膀胱炎に対してはc/dドライ、核酸・不飽和脂肪酸・Vit E・メシマコブを処方。膀胱炎は3カ月で治癒。2歳8カ月時母犬(6歳)が心不全で突然死。この辺りから太り始めたので冷凍生肉BARF(コンビネーション)とおからにサプリメント添加し継続。3歳時細菌性膀胱炎再発、c/d缶に核酸・不飽和脂肪酸・メシマコブ・コモンジュニパー増量、1カ月間で膀胱炎治癒し、その後再発なし。4歳時からの歯石・歯肉炎に対しては核酸・不飽和脂肪酸を増量。5歳3カ月で肥満(体重ピーク、BCS 5)になったので処方食をササミ缶に変更。5歳4カ月時に原因不明嚥下困難で来院、その後左右咬筋が徐々に萎縮し開口不全、体重著しく減少。5歳5カ月時に自己免疫性咬筋炎と診断されたが、薬物療法と栄養療法により完治し体重増加するも咬筋萎縮残存。6歳から甲状腺機能低下傾向を示し8歳3カ月時突然起立不能、免疫介在性溶血性貧血と診断され、ステロイド剤、免疫抑制剤、抗生剤、非ステロイド抗炎症薬等と甲状腺ホルモン剤を投与、栄養療法併用で2週以内に回復。その後9歳2カ月までは医療センターで毎月1回検診し特に変化なしとのことで、薬物療法と栄養療法を継続。以降は甲状腺ホルモン剤とステロイド剤のみ投与し、核酸をベースにしたサプリメントとk/d缶で維持でき再発せずQOLは戻る。飼い主と一泊旅行5日後、突然多臓器不全となり9歳11カ月で死亡。生涯を通し高コレステロール血症、肝(胆道系)機能障害および甲状腺機能低下を示したが、統合医療を施した結果、QOLは概ね保たれていた。なお、7歳10カ月時の肥満細胞腫と9歳5カ月時の乳腺腫瘍は生涯温存した。飼い主は回復の速さ、薬剤を減らすのに要する期間の短さ、副作用の少なさに医療センターの先生方が驚くのを自慢げに報告し、核酸はもとより、ほかのサプリメントを切らすことなく続けてくれた。さらに、大病しながらも、旅行に連れて行くことができたこと、死の直前までヨーグルトを食べ自分の好きな場所まで歩いたことに満足気であった。苦しまずにあっけない死に対しては統合医療の選択に納得された症例であったと思われた。

文献
[1] 花田道子・宮野のり子.2007. 核酸、メシマコブを与えた担ガン動物(犬,猫)の評価と統合医療の選択.獣医東洋医学会誌、15(1);3-8.
[2] 木本英治. 1998. ヌクレオプロタミンの栄養科学 開成出版株式会社