肝臓がん罹患保護犬への栄養管理

○友森玲子1、花田道子2、宮野のり子3
pet salon Mignon 東京都杉並区和泉4-42-39
ヤマザキ学園大学 動物看護学部 東京都渋谷区松濤2-3-10
動物病院NORIKO 東京都港区西麻布3-19-18-M

要約:
肝臓がんで腹水が貯留しているラブラドール系雑種オス犬を動物愛護相談センターより引取り、余生のQOL向上のために、当サロンと自然療法を行なっている動物病院で栄養管理を行ったところ消化機能が改善されて、皮膚の状態、外耳道炎等も好転した。保護当初歩行困難を呈していた両側膝蓋骨脱臼に対しては当サロンではプールで運動させ、さらに動物病院では理学療法を施したところ、走れるまでになった。その後、引取りボランティア宅で栄養管理を行ったところ2年余り小康状態を維持している。
キーワード:保護犬、肝臓がん、栄養管理、QOL

目的:
飼育放棄された肝臓がん罹患犬のQOL向上と、余生飼育の可能性について考える。また動物や飼い主/引取りボランティアに負担のかからない治療法でどの程度QOLの維持ができるのかを検証する。そして飼育放棄されないために在宅での栄養管理を飼い主にアドバイスする。

材料と方法:
動物:動物愛護相談センターより保護した肝臓がん罹患ラブラドール系雑種去勢オス推定8歳(年齢不詳)、肝臓がんは温存、腹水に対しても処置せず。
食餌:生肉(カンガルー)、おからに動物用核酸サプリメント、メシマコブ。その他ホメオパシーのレメディー(肝および胆嚢用、心臓用)。
給餌方法:引き取り当初は少量で回数多くから始め、摂取量の増加にともない、給餌回数を1日2回で維持した。サプリメントは便の状態で消化吸収度合いを確認しながら増減して与えた。動物病院に長期預かり開始後、血液生化学、尿、糞便検査を実施しながらサプリメントの種類と量を検討して与えた。ボランティア宅では生肉に核酸、関節用サプリメント、インターファージを継続して与えてもらった。
歩行困難:サロンではプールでの歩行訓練、動物病院ではさらに、膝蓋骨脱臼に対してはレーザー照射を行った。

結果:
引き取り当初は少量ずつしか摂れず、すぐに嘔吐や下痢をしていたのが2〜3週間もするとまとまった食餌が摂れるようになり、消化器系機能の改善が見られるようになった。その時期に15分程しか歩くことができなかったが、次第に自分で走り回るようになった。毛艶が非常に良くなり、外耳道炎や結膜炎も起こしにくくなった。一方、血液生化学検査の結果では、保護当時に肝臓機能(ALT,ALP)数値は高値、その後一時改善したが、7ヵ月後には再び高値が続いて肝機能は悪化してきていた。この時点でも軽度貧血はあるもののQOLは悪化していなかったので引取りボランティアへ預けた。ボランティア宅では散歩には喜んで行くが食欲にムラがあり、2〜3日食べなくてもまた回復するといったことの繰り返しであったという。ボランティア宅で約1年経過後、動物病院で定期健診したところ、体重は約3 kg減少し、ALP数値はやや上昇、ALTは僅かに下がった。しかし、貧血状態は悪化していた。肝臓がんのサイズはやや大きくなり、腹水も増加して病状は進行していたにも関わらずQOLは維持できており、小康状態が続いている。

考察:
医療費の支払いが困難であるなど、様々な理由でイヌやネコの他、愛玩動物が飼育放棄され動物愛護相談センターで殺処分されることがある。本症例のように腹水が貯留し、肝臓全体が腫瘍に犯されていて安楽死しか選択肢がないように見える症例でも、動物に負担の少ない栄養管理の下で2年近くも延命した上QOLの改善が見られている。また、この症例に関わり見守っている人々に介護の負担は少なく、家庭犬として笑顔と希望を与えることができている。動物と人との関わり、病気と栄養管理について啓蒙活動を続けていきたい。

文献:

  1. 花田道子・宮野のり子.2007. 核酸、メシマコブを与えた担ガン動物(犬,猫)の評価と統合医療の選択.獣医東洋医学会誌、15(1);3-8.
  2. 花田道子・宮野のり子.1997. 核酸(ヌクレオエンジェル)のイヌにおける肝機能改善効果.小動物臨床、16(2);40-42.