20) 核酸、メシマコブを与えた担ガン動物(犬、猫)の評価と統合医療の選択

要旨
 核酸サプリメントとメシマコブを与えた担ガン動物(犬、猫)の飼い主にアンケート調査を行い、われわれの栄養療法および免疫療法に対する評価の違いを検討した。調査対象動物を2群に分け、A群は当院患者、B群はカウンセリングとアフターケアのみの遠隔患者としたところ、効果判定には両群の飼い主の間で腫瘍治療に対する意識の違いがみられた。しかしQuality of Life(QOL)に関しては両群ともほとんどの例で改善されており、高い評価が得られた。西洋医学のガンの三大療法との併用でもQOLが保たれ、外科療法の術後の治癒時間の短縮、化学療法の副作用の軽減などがみられた。
キーワード:ガン、核酸、メシマコブ、統合医療

はじめに
 著者らは開院当初、西洋医学の治療法を中心に中医学を組み合わせた療法を行っていたが、15年前から補完代替医療に関心を持ち、取り入れてきた。その中でも1992年著者らは、遺伝子栄養学の立場から必須栄養の1つとして松永博士1)が開発したヒト用核酸栄養補助食品に着目し動物への応用を試みた。1996年に動物用核酸栄養補助食品(ヌクレオエンジェルおよびエンジェルセブン)を開発し、これらをベースに不飽和脂肪酸、ビタミン、ミネラル、酵素等を用いた栄養療法を行ってきた。肝臓機能改善2)、各種疾患3)、高齢動物4)、幼若動物5)への臨床応用でかなり良い結果が得られてきているが、さらに近年、犬猫の高齢化が進むにつれ担ガン症例も増えてきた。そこで、この栄養療法に加え韓国で制癌剤として認めれれているメシマコブ(PL2、PL5株菌糸体の純培養製品)を使用した免疫療法6,7)も実施してきた。これらの療法はすべて経口で行うため、在宅のみ、または遠隔地の症例に対してもカウンセリングとアフターケア(経過観察の連絡等)を行うことができる。しかし投与およびその後の評価については当院、遠隔地を問わず、飼い主の協力に負うところが多く、評価も飼い主の観察、意識により変わってくる。そこでアンケートによる追跡調査を開始し診療の参考とした。第一次調査として1996年〜2002年1月までに上記の療法を行った飼い主に実施したところ8)、腫瘍性疾患に対しての使用例が当院症例の犬で全体の13%、猫15%、遠隔地症例では犬41%、猫24%とかなり多くを占めていた。そこで第二次調査は2004年3月までの腫瘍性疾患の症例に絞って行い、その結果および飼い主の評価をまとめ第34回本学会9)(2004年)に発表した。その後、さらに担ガン動物を持つ飼い主の治療に対する関心が従来の三大療法から補完代替療法へ向けられてきて、当院ホームページ、拙著10)の読者からの問い合わせ、遠隔での治療希望者も多くなってきた。今回、2006年3月までの第三次調査を行い、延べ506頭の追跡調査を終了したので、その報告と西洋医学(三大療法)を使用した統合医療の選択についても考察することにした。

方法
1.対象動物は、腫瘍性疾患と思われる症例をA群:当院症例、B群:遠隔地症例に分類した。
2.使用したサプリメント
1)動物用核酸栄養補助食品:サケの白子エキスのDNA、酵母エキスのRNAにビタミン、ミネラルを添加したもの。
 ヌクレオエンジェル(NA)、エンジェルセブン(A−7)、ヌクレゲン〔水溶性ヌクレオプロテイン〕(NU)
2)メシマコブ製品:メシマピュア〔PL2PL5〕(M)
3.投与方法
1)NA、A−7、NU:健康維持量の2〜4倍量(4〜30粒/日)を症状、体重に合わせて、粒上のまま、または粉末にして必ず食餌と一緒に与える。
2)M:1〜3包/日を食間(食餌と20分以上あける)に粉末のまま、または水に溶いて与える。
3)併用する薬剤、その他のサプリメントがある場合はそのまま続行し、特に制限はしない。
4.アンケート内容
1)固体データ:動物種、品種、性別、年齢、飼育場所、食餌内容。
2)疾患データ:診断名(つけられたもの)、または罹患部位。
3)治療データ:外科療法、化学療法、放射線療法の併用の有無、補完代替療法のみ。
4)投与データ:種類、投与量、回数、投与方法、嗜好性。
5)評価データ:
 @効果判定(あり、なし、不明)
 AQOL評価(外観、動作、元気、食欲、排泄、疼痛、精神面、を非常に良くなった(+2)から非常に悪くなった(-2)まで5段階評価し総合点を計算)。

結果
・動物種の比率(表1)は、A群犬73%、猫27%、B群犬68%、猫32%と両群とも犬が多くなっていた。
・腫瘍の種類(表1)では、診断のつけられたもの上位3種類をあげると、A群は犬猫とも乳腺腫瘍、2位肥満細胞腫で、3位は犬で肝ガン、猫は白血病であった。B群は犬猫とも1位リンパ腫、2位乳腺腫瘍、3位は犬で肥満細胞腫、猫は白血病であった。
・治療方法の選択比率(表2)はA群では代替療法のみが犬82%、猫95%と圧倒的に多いのに対し、B群では併用したほうが多く、外科療法との併用は犬85%、猫70%で、術後に遠隔症例となったものがほとんどで、化学療法との併用は犬80%、猫80%で治療開始前からの併用は極めて少なく、同時に平行して、または副作用が出てからが大部分であった。放射線療法に関しては、開始までに待ち時間があったため、B群犬猫とも治療開始前からの併用であったが、例数は極めて少なかった。
・投与内容(表3)はA群では犬猫ともNAとMの併用が85%以上であるのに対し、B群は50〜60%にすぎず、NAのみがA群で10%前後、B群では30〜40%となっていた。その他はA−7とM、A-7のみ、NUのみを与えていた。
・効果判定は、投与したものがNAのみ、A-7のみ、NAとMA-7とM、NUのみと組み合わせが様々だが効果判定を総合すると(表4)効果ありがA群犬猫とも85%、B群犬猫とも65%、効果なしはB群猫のみで13%、その他は不明となっていた。
・QOLの評価(表5)では、総合点で(+)、すなわち改善となったものが、A群では犬猫とも100%、B群でも犬97%とかなり高い評価が得られた。
・死亡例のコメントでは、苦しまずに、または痛がらずに亡くなった、あっけない、静かな死、毛つやがが良くきれいな死に姿、最期まで食欲あり、メシマコブは死ぬ前日まで飲めた、等が記入されていた。
・表6には代表的な症例を示したが、血液検査可能な当院症例では、リンパ球数(実数値)とその百分比に増加がみられたものが37例中10例あった。これらはいずれも良好な経過が得られた症例であった。
・当院症例一部抜粋(表6の上から4例)
〈図1〉シー・ズー、雌、13歳齢、乳腺腫瘍、慢性難治性皮膚疾患、心疾患等で転院。血液検査で慢性骨髄性白血病も併発と分かり、核酸(NA)投与。メシマコブの代わりに飼い主所持のβ-グルカン使用。投与2年間で白血球数の増加でリンパ球数の絶対数は増えたが、百分比は1%と変化は認められなかった。図1は乳腺腫瘍および抹消血塗抹像(ギムザ染色)。
〈図2〉ミニチュア・ダックス・フンド、雄(後に去勢、12歳齢)、右側片側潜在睾丸の皮下にあった腫瘤が腫大したためNA、M投与開始。飼い主の希望で8ヶ月後に摘出手術実施。対側の精巣は萎縮していた。術前、術後を通し1年4ヶ月間NA、M投与。リンパ球数、百分比とも増加。図2は摘出した右側潜在睾丸とその組織像(HE染色)、悪性セルトリー細胞腫およびセミノーマと診断される。
〈図3〉ミニチュア・ダックス・フンド、雄、16歳齢、乳腺腫瘍温存。NA、Mを5年9ヶ月間投与。途中一時(投与1ヵ月位〉縮小するが再びやや増大するもそのまま維持。リンパ球数、百分比とも増加。既往例として慢性子宮蓄膿症、歯肉炎。椎間板ヘルニア(軽度)があるが、代替療法のみで維持。図3は乳腺腫瘍NA,M投与前と投与1年10ヵ月後。
〈図4〉ゴールデン・レトリーバー、避妊済根雌、12歳齢、口腔内(歯肉)扁平上皮癌、肥満細胞腫、脂肪腫、歯肉腫、乳腺腫瘍、肛門上部に肉芽腫、外耳道炎、膀胱炎、僧帽弁閉鎖不全症。NA、M投与6ヶ月後に扁平上皮癌消失。他は温存。図4は肥満細胞腫とそのFNAで採取された肥満細胞(ギムザ染色)。

考察
 A群とB群の飼い主の評価のうち効果判定のおける大きな違いは腫瘍治療に対する意識の問題であった。A群は肉眼的な腫瘍の大きさ、血液検査データによりQOLの改善または維持を持って効果ありとしているのに対し、B群は腫瘍が消失または縮小すること、もしくは検査数値が良くなることで効果ありとする傾向があった。また、効果判定の差はわれわれの療法を選択した動機、理由、開始時期(病期の初期か末期か)にもあり、A群は定期健診で早期発見、早期治療を開始したのに対し、B群ではなす術がなくなったところで始めた例がかなりあり、効果の出る前に死亡したり、効果を期待しすぎ、または即効性を期待して効果なし、不明と判定したための数字と思われた。
 しかし、QOLの評価では改善となったものがA群100%、B群でも95〜97%とかなり高い結果が得られた。総合点でも0というのは大旨維持とみなしても良いと思われる。死亡例のコメントにおいても、QOLが最期まで保てたという満足感が感じられた。
 核酸、メシマコブ使用前後のリンパ球数の変化において、増加がみられた例は手術の予後やQOLの維持が良好で、これは嶋田らの免疫応答の研究11)および安保学説12)で示されたように免疫力の増強が示唆されたものと思われた。猫は生来リンパ体質の固体もみられるため、犬と比較すると判断が難しいと思われる。今後も免疫応答に関して例数を重ねて観察検討したいと思う。
 著者らの栄養療法、免疫療法とガンの三大療法との併用効果は、外科療法との併用で、術後のQOL(特に食欲や活動)の回復の早さ、術創治癒日数の短縮(抜糸までの時間日数の短縮、術創の状態)があげられ、化学療法との併用では、副作用の軽減、特に貧血、脱毛、食欲不振がほとんどみられなかったという評価を得た。放射線療法を行った例はB群の少数のみだが、術後の再発防止目的で行おうとしているものの、ためらっている飼い主に、放射前から動物に核酸を食べさせておくことで、精神的な負担が軽くなり、動物の被爆による副作用(食欲不振等)も軽減できたと良い評価を受けた。飼い主の不安を取り除くことも大切であろう。併用全体を通して三大療法を行う前後に核酸とメシマコブを健康維持量の2〜4倍を確実に投与することで、QOLの維持、再発防止に役立つと思われる。
 補完代替療法と西洋医学を合わせた統合医療を勧める場合は、インフォームド・コンセントと投与の開始時期が重要である。当院を選ぶ飼い主の中には体に優しい療法だけで治したい、または直ると思っている人もいるが、初期ガンで動物に免疫力があるうちはコントロールできるが、ガンの進行に加速度がつき、かつその動物の免疫力も低下している状態では立ち打ちできない場合もある。そのような時は三代療法の併用も考え、その中のどれを選ぶか提示し、そして選んだら開始時期が遅れてガンの増大により動物に苦痛を与えることのないように、飼い主に専門医の意見にも耳を傾けることを提案し、セカンドオピニオンとして専門医への受診を勧めている。と同時に、どの療法を行う場合でも、受け入れ側の動物の免疫力を上げておかなければ良い効果は得られない。それには、体の細胞1つ1つがまず活性化され治癒力をつけるための栄養療法、栄養管理が大前提となるのであるが、生涯を通しての栄養療法でガンをはじめとするあらゆる疾病の予防を心掛けたい。予防に勝る治療はないからである。
 体に優しい療法を勧めてきたわれわれは、決してガン治療の選択肢として西洋医学療法を否定しているわけではない。むしろ補完代替医療と西洋医学療法をうまく組み合わせる統合医療を実践していきたいと思っている。

参考文献
1)松永政司、宇住晃治:遺伝子DNA核酸栄養学、東急エージェンシー、1993
2)花田道子、宮野のり子:核酸(ヌクレオエンジェル)のイヌにおける肝機能改善効果、小動物臨床Vol.16、No.2、1997
3)花田道子、宮野のり子:核酸(ヌクレオエンジェル)療法の犬、猫に対する臨床応用、小動物臨床Vo.16、No.4、1997
4)花田道子、宮野のり子:老齢犬及び老齢猫における核酸(ヌクレオエンジェル)療法の効果、小動物臨床Vol.16、No.6、1997
5)宮野のり子、花田道子:幼齢動物の遺伝子栄養学、日本小動物獣医学会講演発表、2005
6)宮野のり子:メシマコブとその臨床応用について、小動物臨床Vol.18、No.4、1999
7)前田華郎監修:メシマコブがガンに効く、河出書房新社、2001
8)花田道子、宮野のり子:犬・猫の栄養療法における核酸・メシマコブ使用例のアンケート調査による評価、小動物臨床Vol.22、No1、2003
9)花田道子、宮野のり子:担ガン動物(犬・猫)に対する栄養療法における核酸、メシマコブ使用例のアンケート調査による評価、第34回獣医東洋医学会講演発表、2004
10)花田道子、宮野のり子:ペットがガンになってしまったら、メタモル出版、2004
11)嶋田照雄、西上達也ら:腫瘍疾患犬の免疫応答に対する核酸ならびにメシマコブの効果に関する研究、第26回動物臨床医学会講演発表、2005
12)安保 徹:図解 安保 徹の免疫学入門、宝島社、2004