19) 腫瘍性疾患犬の免疫応答に対する核酸ならびにメシマコブの効果に関する研究

嶋田照雅 西上達也 青木美香 吉田文人 宇住晃治
松永政司 宮野のり子 大橋文人

第26回動物臨床医学会年次大会 2005(平成17年)

腫瘍性疾患犬の免疫応答に対する核酸ならびにメシマコブの効果を検討するため、外科療法や化学療法などを実施した腫瘍性疾患犬25頭に核酸およびメシマコブを単独あるいは双方投与し、各症例における細胞性免疫応答の変化と共に予後を検討した。核酸群、メシマコブ群ならびに核酸+メシマコブ群において、投与後に抹消血単核球におけるCD3ならびにCD8陽性細胞の百分率の増加、γ-IFN、IL-2ならびにIL-12 mRNAの発現、細胞傷害活性の増強が観察された。また、上記の免疫学的検査により、細胞性免疫応答の活性化と持続が認められた症例は、予後良好であった。以上の結果から、核酸ならびにメシマコブは、腫瘍性疾患犬の免疫応答を活性化するものと推察された。また、その効果は再発や転移の抑制に密接に関係するものと考えられた。

キーワード:腫瘍性疾患犬、核酸、メシマコブ、免疫応答

はじめに

 核酸ならびにメシマコブの抗腫瘍効果については、以前から癌患者と同様に腫瘍性疾患の伴侶動物においても報告されている。伴侶動物におけるこれら物質の抗腫瘍効果は、担癌マウスなどを用いた実験から免疫応答の活性化が密接に関係しているものと推れている。しかしながら、腫瘍性疾患の伴侶動物の免疫応答に対するこれら物質の効果と予後との関係については検討されていない。そこで本研究では、外科療法や化学療法などを実施した腫瘍性疾患犬の免疫応答に対する核酸ならびにメシマコブの効果を、投与前後における抹消血単核球のサブセットの変化、サイトカインmRNAの発言の変化ならびに細胞傷害活性の変化により評価し、各症例の予後と共に考察した。

方法

 大阪府立大学生命環境科学部附属獣医臨床センターに来院し、腫瘍(固形腫瘍)性疾患と診断された症例犬25症例(表1)を無作為に核酸群(核酸のみ投与)、メシマコブ群(メシマコブのみ投与)ならびに核酸+メシマコブ群(核酸とメシマコブを投与)に分けた。各群には、外科療法や化学療法の開始と同時に核酸は200〜300mg/kgを2回に分けて食中に、メシマコブは100〜200mg/kgを2回に分けて食間に投与した。投与は3カ月間行った。投与前、投与1ケ月、2ケ月ならびに3カ月後に各群の各症例から血液を採取し、血液から単核球を分離した。分離した末梢血単核球について、酸素抗体法によりCD3、CD4、CD8ならびにIgG陽性細胞百分率、RT-PCR法によりγ-IFN、IL-2 IL-12 p35ならびにIL-12 p40 mRNAの発現、さらに犬乳腺腫瘍細胞株を用いた細胞傷害活性を検討した。また、各症例の臨床経過を治療開始から12カ月以上観察した。

結果 嗜好性ならびに副作用

 投与期間中において各症例において嗜好性ならびに副作用と思われる臨床症状や血液検査異常は認められなかった。

末梢血単核球におけるサブセットの変化

CD3陽性細胞百分率は、核酸群、メシマコブ群ならびに核酸+メシマコブ群の全て群において投与後増加する傾向が認められたが、本サブセットの増加は核酸+メシマコブ群において特に顕著であった。CD4陽性細胞百分率は、核酸群ならびにメシマコブ群では投与後における特記すべき変化は認められなかったが、核酸+メシマコブ群では投与後に増加する傾向が観察された。CD8陽性細胞百分率は、メシマコブ群では投与後における特記すべき変化は認められなかったが、核酸群ならびに核酸+メシマコブ群では投与後に増加する傾向が認められた。さらに、IgG陽性細胞百分率は、メシマコブ群では投与後における特記すべき変化は認められなかったが、核酸群ならびに核酸+メシマコブ群では投与後に減少する傾向が認められた。

末梢血単核球におけるサイトカインmRNAの発現の変化

γ-IFNあるいはIL-2 mRNAの発現は、投与前に消失している症例が認めらaれたが、投与後には全ての群において双方のサイトカインmRNAの発現が認められる様になった。IL-12 p35ならびにIL-12p40 mRNAの発現は、投与前に片方あるいは双方が消失している症例が認められた。投与後、全ての群においてIL-12 p35とIL-12 p40 mRNAの片方あるいは双方の発言が認められる症例が増加し、核酸群ならびにメシマコブ群では全症例が双方の発言が認められる様になった。

末梢血単核球の細胞傷害活性

 細胞傷害活性は、投与前においてIL-12 p35ならびにIL-12 p40 mRNAの片方あるいは双方が消失している症例では、健常犬に比較して有意に低下していた。しかし、全ての群において投与後にIL-12 p35ならびにIL-12 p40 mRNA双方の発言が認められるようになった症例では、投与前に比較して細胞傷害活性の上昇が認められた。

予後

 各群において、上記検討項目において免疫応答の活性化ならびに持続が推察された多くの症例では、約12ヵ月間再発や転移が認められなかった。

結論

 核酸ならびにメシマコブは、腫瘍性疾患犬の免疫応答を活性化する作用があり、その作用は核酸とメシマコブを併用することにより増強されるものと推察された。また、核酸およびメシマコブの免疫応答を活性化する作用は、腫瘍性疾患犬の再発や転移の抑制と密接に関係しているものと考えられた。