16) 犬猫の栄養療法における核酸,メシマコブ

使用例のアンケート調査による評価
花田道子 宮野のり子 
小動物臨床 Vol.22 No.1(2003.1)
はじめに
我々は,以前から動物用核酸(ヌクレオエンジェル及びエンジェルセブン)をべ一スにビタミン,ミネラル,不飽和脂肪酸,植物酵素,食物繊維,メシマコブ等の栄養補助食品を用いた栄養療法を行ってきた1),2),3)。栄養療法は,現代西洋医学以外の医療である補完・代替医療の一部で我々はこの補完・代替医療と現代西洋医学,民間療法など様々な分野の有効,有益な治療法を組み合わせた統合医療を目指すと同時に予防医学にも力を入れてきた。中でも,栄養補助食品を与える栄養療法は,飼い主の協力に負うところが大きい。そこで今回,該当する当院患畜(以下A群とする)及びカウンセリングのみで実施の遠隔患畜(以下B群とする)の飼い主にアンケート調査を行い,栄養療法に対する意識と評価を把握し診療の一助とするためにまとめてみた。又,採尿,採血可能なA群のイヌ(のべ約200例)には,ヒトの遺伝子酸化損傷度を判定する8−OH−dGの測定4)も遺伝子栄養学研究所のご協力・ご指導のもとで試みた。

方  法
ヌクレオエンジェル(以下NAと略す)はサケ(鮭)の白子エキス由来のDNA,ビール酵母からのRNAに,ビタミンA,D,B1,B2,B6,B12,C及び,ミネラル類を添加したもので,エンジェルセブン(以下A−7と略す)は,NAより核酸量が少なくビタミンA,D,B6が入っていないが嗜好性はよいものである。メシマピュア(以下メシマと略す)は,メシマコブ(学名フェリナス・リンテウス)というキノコの中でも最も抗腫瘍作用に優れた菌株PL2,PL5の菌糸体を人工培養し,その熱水抽出エキスを乾燥粉末にしたもので韓国では医薬品として認められている製品である。
投与量及び方法:表−1に示すとおり,健康維持のためには年齢,体重に応じて主としてA−7を1日に2〜10粒,罹患動物にはさらに病状も考慮してNAまたはA−7を1日に4〜20粒を,メシマは1日に1〜2gを与えてもらい,核酸は食餌と共に,メシマはできれば食間に与えるように指示した。いずれの場合も,1日量を2〜3回に分け,最少量から始め便の状態をみながら増減させ,予定量へ持っていく方法をとった。というのは核酸の副作用というよりは好転反応としての下痢,軟便を考慮したためで
ある。併用薬のある場合は続行し,特に制限はしなかった。8−OH−dG測定用のサンプルは尿5ml以上,血清O.2ml以上を採取後直ちに冷凍しライフサイエンス研究所へ送付した。

●アンケート内容
○個体データ
・動物種,品種,性別,年齢,飼育場所,食餌内容,排尿・排便状態
○疾患データ
・疾患部位・疾患名
○サプリメントデータ
・種類,投与量,回数,投与方法,嗜好性
○評価データ
・効果あり/なし/不明,死亡時の様子

表−1 投与量及び方法

動物の区分 栄養素 投与量 与え方 形状

健康維持

A-7 2−10粒/日 餌と一緒 粒または粉
罹患動物 NA 4−20粒/日 餌と一緒 粒または粉
罹患動物 A-7 4−20粒/日 餌と一緒 粒または粉
罹患動物 メシマ 1−2g/日 食間 粉または水に溶いて


結  果
●アンケート例数(のべ症例数)
A群:193例(イヌ 120例 ネコ 73例)
回収率90%
B群:143例(イヌ 84例 ネコ 59例)
回収率80%



☆核酸使用件数
図-1はイヌの疾患別割合を不し,多い順にA群では炎症性疾患(22%),健康維持(17%),皮膚疾患(16%)腫瘍性疾患(13%)B群では腫瘍性疾患(41%),皮膚疾患(18%),炎症性疾患(8%),健康維持(7%)となっている。
図-2はネコの疾患別割合を示し,A群,B群ともFIP,FIV等のウィルス性疾患がそれぞれ30%と32%と一番多く,ついでA群では健康維持(19%),泌尿器系疾患(19%),腫瘍性疾患(15%)となるのに対しB群では腫瘍性疾患(24%)泌尿器系疾患(14%)と続き,健康維持は少なく8%程度で同居ネコが病気でついでにという場合も数例あった。

表−2 全症例中メシマコブを使用した割合[%]
メシマ使用率
そのうち腫瘍の割合

メシマ使用率 そのうち腫瘍の割合
A群 イヌ 18.3 45.4
ネコ 18.7 40.0
B群 イヌ 22.2 80.0
ネコ 25.0 40.0


☆メシマ使用例
表−2は全症例中メシマを使用した割合(%)を示したもので,全体の約20%を占めていた。その中で腫瘍性疾患に使われている例がA群イヌ,ネコ,B群ネコで半数近く,B群イヌでは80%にも及んでいた。次いで両群ともイヌでは難治性皮膚疾患に,ネコではウィルメ性疾患(FIP,FIV),泌尿器系疾患に使用されていた。

表−3 疾患に治する効果の割合(イヌ)[%]

効果 腫瘍 皮膚疾患 心疾患
A群 あり 83 91 67
なし
不明 33
B群 あり 79 80 67
なし
不明 21 20 33


表−4 疾患に治する効果の割合(ネコ)[%]

効果 腫瘍 ウィルス病 泌尿器疾患
A群 あり 85 100 100
なし
不明 15
B群 あり 66 90 86
なし 33
不明 10 14


☆疾患別効果の評価(代表的なもの3例ずつ)
表−3に示すようにイヌでは腫瘍性疾患に対しA群では効果あり83%なし8%不明9%,B群では効果あり79%不明21%皮膚疾患ではA群効果あり91%なし9%B群効果あり80%なし20%,心疾患では両群とも効果あり67%なし33%であった。
ネコの場合は表−4に示すように腫瘍性疾患に対しA群効果あり85%不明15%,B群効果あり66%なし33%,ウィルス性疾患ではA群効果あり100%,B群効果あり90%不明10%,泌尿器疾患ではA群効果あり100%,B群効果あり86%不明.14%であった。死亡例については『静かに眠るように』『苦しまず穏やかな死』『あっけない死』『死ぬ直前まで食べていた』等のコメントが寄せられていた。

☆8−Oh−dG測定結果
8−OH−dG測定結果は,尿,血清ξも一貫性がなくばらつきが大きくなってしまったので解析方法に問題があり現在検討中である。

まとめ
効果の判定に関して,イヌでは両群とも腫瘍性疾患の8割近くが効果ありとなっているのは腫瘍治癒効果よりQ.O.Lの改善がかなり大きく反映しているようである。皮膚疾患について,B群の不明がA群より多いのは投与期間に差があり,即効性を期待している飼い主には不評で,途申で止めてしまう例もあったのが残念である。心疾患での不明が両群とも3割ほどあったのは現状維持が含まれていると思われる。ネコではA群腫瘍例の85%に効果ありとなっているのに対しB群では66%と少なく効果なしも33%あるのはカウンセリングした時期が末期病変のものが多かったためである。ウィルス性疾患に対する評価はFIP等,抗体価の推移ではっきりとみられるため効果ありが両群とも多く,高い評価が得られている。全体を通してみるとQ.O.L.の改善はほぼ全例に見られたが,栄養療法は飼い主の理解と協力がよい結果をもたらすため飼い.主への啓蒙が必要と思われる。又,A群では健康維持にも核酸を用い,担癌動物が少ないことから,核酸による予防が大切であり,さらに,L.B.A.(Live B1oodAna1ysis)法5)や8−OH−dG測定での予知をうまく合わせられれば,健康維持への貢献度が高まると思う。治療より予防に力を入れていきたいが,不幸にして羅患してしまった動物にも核酸とメシマコブ等を合わせた療法でQ.O.L.が改善され,最期まで食欲があり苦痛のない死を迎えさせられるといったことにも栄養療法の意義はあると思われる。

謝 辞
8−OH−dG測定にいろいろとご指導ご協力いただきましたライフサイエンス研究所に深謝いたします。

参考文献
1)松永政司,宇住晃治:“遺伝子栄養学”東急工一ジェンシー出版部2001年
2)前田華郎:“メシマコブがガンに効く”河出書房新社2001年
3)宮野のり子,花田道子:ネコの乳腺腫瘍への核酸栄養療法 小動物臨床VoI.6No.5(1997.9)
4)LoftS,Fischer Nie1sem A,JedingIB,VistisenK,Pou1sen HE J,Toxicol Environ Hea1th 19930ct−Nov:40(2−3):391〜404
5)花田道子,宮野のり子:栄養療法におけるL.B.A.検査(Live B1ood Analysis)の犬猫への試み小動物臨床 Vo1.20No,4(2001,7)