13) ホメオパシーの基本用語(連載第3/5回)

はじめに
人々が健康を願う気持ちは,家族に対しても,家族の一員である動物に対しても同じです。われわれ獣医師は21世紀,西洋医学を基盤としつつ生体全体をみる補完代替医療(Complementary and Alternative Medicine:CAM)を習得し,飼い主のそのような思いに応えていくようにしていかなければなりません。さまざまな医療システムや療法から構成されていて,その理解が難しいといわれている補完代替医療ですが,心と体の相互介入治療法,生物学的療法,身体操作および身体的療法,エネルギー療法のように,大きく分類した上で,具体的にその内容を知ることで,理解しやすくなると思います。

補完代替医療システムとは
アメリカではすでに驚異的に成長している補完代替医療ですが,ここには連載1回目(PROVET,2001年10月号)で紹介したとおり,鍼灸,ホメオパシー,自然療法,アユルベーダ,民間伝承療法などが含まれます。前述の分類に従い,簡単に紹介します。
@心と体の相互介入治療法(mind-body intervention):さまざまな技術を用い,身体機能と病気の症状に影響を与える心の能力を促進させる療法で,瞑想,催眠術,祈祷,芸術・音楽・舞踏療法などが含まれます。理論的根拠を示す文献が揃い,科学的証証明がされているものは,通常医療に組み入れられています。たとえば,認識行動療法(cognitive-behavioral therapies)やストレス低減法などは,神経系と内分泌系,免疫系の相互関係や相互作用,治療効果が生化学的に証明され,通常医療に組み込まれています。
A生物学的療法(biologically based therapy):ハーブ療法,特別食餌療法,正常生体分子論療法(orthomolecular therapy),栄養補助食品を用いる療法が含まれます。
B身体操作および身体的療法(manipulative and body-based method):身体を揉んだり,動かすことを基本とする療法です。脊髄を揉む指圧療法(chiropractic approach),整骨療法(osteopathic therapy)などのマッサージが含まれます。
Cエネルギー療法(energy therapies):気功(qi gong),霊気,タッチ療法(therapeutic touch)などが含まれます。生命体のエネルギーのバランスを整える療法で,ここでいうエネルギーには身体の中から発生するエネルギー(bio fields)と他から発生するエネルギー(electromagnetic fields)とがあます。
また,多くの補完代替医療はホリステイック医療ともいわれます。その意味するところは,生命体を肉体と精神,霊性と,全体的に考えていることからきています。今号は,とくに最近,医師・獣医師に注目されているホメオパシーの用語について解説します。

ホメオパシー
ホメオパシー(homoeopathy:homoios=同種・類似,patheia=病気・苦痛)とは,「健康な人に投与して,ある症状を起こさせるものは,その症状を取り去るものになる」という,同種の法則を根本原理とする自然療法です。たとえば,熱が出たときは暖める,喉が痛いときにはヒリヒリするショウガでうがいするなどのように,病気の症状に似たような症状を起こす物質を希釈して与えることによって,免疫系を刺激,活性化して,治癒へ向かわせるのです。同種の概念は医聖ヒポクラテスももっていたといわれています。1800年代のはじめ,ライブジック・エコノミック・ソサエティーで開催された講演会で,ホメオパシーの創設者であるドイツ医師サミュエル・ハーネマン(Samuel Hahnemann:1755−1843)は人間と動物に施されたホメオパシーに類似性があることを取り上げています。また,動物に対するホメオパシーはこのころ(19世紀始め)にバロン・ボン・ボーニングハウゼンによって導入されています。

アロパシー
アロパシー(allopathy:allo=違う,patheia=病気)とは現代西洋医学を指し,ある症状があるとき,その症状を起こすものとは違うものを用いて治療する療法です。たとえば,熱が出たら冷やす,細菌などに感染したら抗生物質を使用するというもので,ホメオパシーとは反対の考え方です。また,アロパシーでは細菌が悪い,ウイルスが悪い,カビが悪いと,それらを駆除することで病気を解決できると考えます。しかしながら,アロパシー療法では病気に勝つことはできません。ただ単に,症状に勝利しているだけなのです。

病気と症状
病気とはバイタルフォースの停滞です。症状とはバイタルフォースのバランスの崩れからもたらされる結果です。目に見える症状は原因ではなく,病気,つまりバイタルフォースの停滞が症状の真の原因なのです。

バイタルフォース
バイタルフォース(自然治癒力,自己治癒力)とは,生命エネルギーの流れです。その流れが生命を形成しています。ホメオパシーではバイタルフォースという生命エネルギーの流れが,生物に生命を与えていると考えます。これは見えません。バイタルフォースは非物質的なエネルギーの流れなのです。病気とはこのバイタルフォースの停滞なのです。バイタルフォースの停滞に作用し,病気を解決できるのは,同じく非物質的なレメディーだけです。レメディーがバイタルフォースに刺激を与え,病気を押し出すのです。自己(本来の生命エネルギーの流れ)が非自己(病気)を認識し押し出していく力,これがバイタルフォースの力です。

レメディー
レメディーとはバイタルフォースに働きかけ自然治癒力のスイッチを入れるもので,いわゆる薬とは異なります。レメディーは物質をすりつぶし,希釈・振盪することにより,その中に宿るスピリットを取り出したものです。現在,3000種類以上がリストアップされていますが,鉱物や植物,動物,病変組織(ノソード)をはじめ,太陽の光や月の光までがレメディーになっています。レメディーにできることはあくまでも自然治癒力のスイッチを入れることで,病気を追い出すのは自然治癒力(バイタルフォース)です。

ポテンシー(効果的希釈倍率)
ハーネマンは物質を希釈・振盪することで,物質の損失とともに心身に深く作用する働きを発見しました。その希釈・振盪の程度をポテンシーと呼び,単位記号はCです。それはラテン語で100を意味するCENTURIAの頭文字で,100倍希釈法を意味します。つまり,30Cは100倍希釈法を30回行ったことを指し,10の60乗倍希釈ということです。

ホメオパシーにおける法則
@類似の法則:患者のもつ症状と同じ症状を起こす自然薬を与えると,自然治癒力が発現して病気を治癒させることができる。
Aシュルツの法則:大量の毒・大きな刺激は生命力を阻害し,微量では生命力を上げ,微量ではむしろバイタルフォースに刺激を与え,生命力を促進し,正常化する。シュルツはドイツのホメオパシー医師。
Bへリングの治癒の方向性の法則:コンスタンティン・ヘリング(Constantine Hering:1800−1880)は,身体は自分自身を救うために病気を一定方向に押し出そうとすることに気づき,定式化しました。それが,へリングの治癒の方向性の法則です。その骨子は,新しい症状から古い症状へ,体内から体外へ,心から身体へ,重要な器官から重要でない器官へ,上から下へ,というものです。ただし,この法則は慢性症状におけるもので,急性症状では適合しません。

クラシカルホメオパシーとプラクテイカルホメオパシー
クラシカルホメオパシーは1回に1種類のレメディーを処方する方法で,1種類のレメディーをリピートしない,ポテンシーの高いレメディーを使うなどの特徴があります。それに対し,プラクテイカルホメオパシーは,病名ごとにレメディーを多数混合して処方箋をつくりあげたもので,低希釈倍率から高希釈倍率までの複数のレメディーを繰り返し投与します。治療効果のよい方法です。

マヤズム
マヤズム(Miasm)とは,感染症で抑圧されたものが,祖先から代々受け継がれてきているもので,病気ではなく,その痕跡といえるでしょう。現代人はすべてのマヤズムをもっており,慢性病は何らかのマヤズムが元になっています。

参考文献
1) 油井寅子(ロイヤル・アカデミー・オブ・ホメオパシー学長):ホメオパシー・イン・ジャパン
2) 清水紀子:ホメオパシーと漢方薬,獣医東洋医学会会誌,第7号,2001年

表 代表的な36種類のレメディー

レメディー 種別 和名 キーノート

1 Aconiteアコナイト 植物 トリカブト 恐怖,ショック,不安
2 Ant-tart アンチモニュームタータリカム 鉱物 アンチモン 咳・喘息
3# Apis エイピス 動物 蜜蜂 ノミ,ハチなど虫さされ
4# Arg-nitアージニット 鉱物 ショウ酸銀 恐怖,パニック
5# Arnicaアーニカ 植物 ウサギキク 事故,出血
6# Ars-albアーセニカム 鉱物 砒素 下痢,嘔吐
7# Belladonnaベレドーナ 植物 イヌホウズキ 高熱
8# Bryonia ブライオニア 植物 蔦瓜 乾燥,頭痛
9 Calc-carbカルカーブ 動物 牡蠣殻 骨,歯
10# Calendulaカレンデユラ 植物 キンセンカ 傷
11# Cantharisカンサリス 動物 スペイン蝿 火傷,膀胱炎
12# Carb-vegカーボベシ 植物 植物炭 蘇生,消化不良
13# Chamomillaカモミラ 植物 モキール菊 痛み,怒り
14# China チャイナ 植物 キナの皮 体液の喪失
15 Drosera ドロセラ 植物 モウセンゴケ 百日咳,結核
16 Gelsemiumジェルセミウム 植物 ジャスミン インフルエンザ
17 Hepar-sulphヘパソーファ 鉱物 硫化カルシウム 化膿,炎症
18# Hypericumハイペリカム 植物 オトギリソウ 破傷風,神経系
19 Ignatia イグネシア 植物 イグナシア豆 失神,ヒステリー
20# Ipecac イペカック 植物 吐根 嘔吐
21 Kali-bichケーライビック 鉱物 重クロム酸カリウム 鼻の炎症
22 Lachesisラカシス 動物 蛇毒 生殖器
23 Ledum リーダム 動物 ローズマリー 深い傷,犬に咬まれる
24 Lycopodiumライコポデイアム 植物 苔杉 不安
25 Mag-phosマグフォス 鉱物 リン酸マグネシウム 疼痛
26# Merc-vivマーキュリー 鉱物 水銀 口腔内の炎症
27 Nat-mur ネイチュミア 鉱物 岩塩 熱からの発疹
28# Nux-vomicaナックスヴォミカ 植物 マチンシ 肝臓
29 Phosphorusフォスフォラス 鉱物 リン 胃腸系,骨
30# Pulsatillaポーステイラ 植物 アネモネ 子どもの病気
31 Rhus-toxラストックス 植物 毒蔦 筋肉,関節(大)
32 Rutaルータ 植物 ヘンルータ 腱,骨の疼痛,関節(小)
33 Sepia シイピア 動物 ヤリイカの墨 ホルモン(女性)
34# Silica シリカ 鉱物 水晶 体内異物
35 Staphysagriaスタッフサグリア 植物 ヒエンソウ 屈辱
36 Sulphur ソーファー 鉱物 硫黄 皮膚疾患
*キーノートについては,抜粋してあります。

*#のついたレメディーは,簡単に使えるものです(ホメオパスの清水紀子先生推奨)。私は,Aconite 30Cを入院中,神経質になっている犬に,Calendula クリームを外傷,外耳炎に,Apis 30Cをアレルギーによく使っています。また,そのほかのサポートも併用しています。

表 5大マヤズム

マヤズム − レメディー

1 疥癬 − Psoric Psorinum
2 淋病 − Sycotic Medorrhinum
3 梅毒 − Syphilitic Syphilinum
4 結核 − Tuberculinic Tuberculinum
5 癌 − Cancerinic Carcinocin