11) 高まる代替医療への関心(連載第1/5回)

はじめに
300年続いた鎖国と藩幕体制が崩壊し,天皇親政に変わり,明治政府は政策として近代化路線をすすめていきました。欧米の文化が怒濤のごとく押し寄せ,医学も否応なしにその流れのなかに飲み込まれていきます。つまり,明治2年,政府は今後の方針として西洋医学を導入することを示したのです。そのため2000年以上にもわたってわが国の主流であった漢方医学はヨーロッパ医学に駆逐されていき,オランダやイギリス,ドイツから医学が入ってきました。そのような状況のもと,明治28年,政府は医療行政から漢方医学を抹殺したのです。
このような歴史的背景下,明治,大正,昭和,平成と,西洋医学は急速な発展を続け,大きな成果をあげています。しかしながら,不必要で高額な診断をいくつも実施,全体をみないで診療し,副作用の多い薬品を多用する医療,つまり,それぞれがもっている自然治癒力や患者の心を無視した何が何でも治す治療は,すっきり治らない慢性疾患には20世紀後半より限界がみえてきて,それらの病気をかかえた患者は藁をもつかむ思いで代替医療への関心を高めています。

代替医療とは
代替医療とは現代西洋医学以外の医療で,医療機関で通常行われる治療以外のものを指します。アメリカでは代替医学(alternative medicine),ヨーロッパでは補完医学(complementary medicine)という言葉を使っています。わが国では,補完・代替医療という言い方もします。表に最近の報告から代替医療の種類をまとめておきました。
第二次世界大戦後,わが国にはアメリカからさまざまな現代西洋医学が紹介されてきましたが,そのアメリカでは1960年代からオルタナティブ,ホリスティックというコンセプトがカウターカルチャー(対抗文化)の思想のもとで根付いていました。1992年には国立保健研究所(NIH)に代替医療調査室(OAM)が創設され,1998年にはそれが昇格して国立相補代替医療研究センター(NCCAM)となり,予算も数十倍に膨れ上がりました。  
各医科大学には相補代替医療(CAM)センターができ,医学教育カリキュラムにも代替医療が導入されるようになっています。獣医学部の教育でも,同様の動きが進んでいます。イギリスでも国家による代替医療の研究機関ができ,ウエストミンスター大学のようなCAM教育機関も誕生しています。
一方,日本はホリスティック医学研究会を母体に1987年,日本ホリスティック医学協会が誕生しています。そして,1998年ごろから代替医療に関する動きが活発化して,日本相補・代替・伝統医療連合会議,日本補完・代替医学会,日本統合医療学会が生まれ,2000年より,聖マリアンナ医大と慈恵医大で代替医療の教育が始まりました。残念ながら獣医学部ではまだなようです。

ホリスティック医療とは
ホリスティックとは,ギリシャ語のHolos(全体)を語源とし,臓器(部分)を診るのではなく,体全体をまるごと診ていく,体と自然の関わり合い,生命と生命とのつながりなどを考慮したうえで総合的に診ていく医療を指します。つまり,現代西洋医学,補完・代替医療,民間療法など,あらゆる分野を分け隔てなく,有効・有益である治療法を総合的に組み合わせて行う統合医療をホリスティック医療というのです。本当のホリスティックな健康体はボデイ(体),マインド(心),スピリッツ(霊性)のバランスの上に成り立っています。このバランスが崩れると病気になります。そのため,すべてを統合した医学が必要なのです。ヒトを含めた動植物は遺伝子をもって生まれますが,ストレスやトラウマをはじめ,精神的・物理的なさまざまな要因で,その遺伝子が損傷を受けます。それが病気の元となるのです。だからその元を治療するのです。どんな方法でもよいと思います。個々の生体にあった方法を見つけ,体に自然治癒力をつけ,体の深部から病気に打ち勝つということを考えるのが,ホリスティック医療なのです。
ただし,西洋医学は科学で実証できますが,ホリスティックな考えは未科学なのでなかなか理解できない人もいます。多くの先生方が興味をもち理解されれば,いずれすべての方法が実証される時代も来るでしょう。生命体はエネルギーです。基本は食事と心と気です。ホリスティック医学は「場」全体のポテンシャル(生命体,命,霊性と理解する)を上げるための方法論として代替医療を選択するのです。
今回,補完・代替医療,ホリスティック医療について,人間と動物を同じ観点で考え,説明しています。なぜかというと,動物も人間も生命体ということでは同じだからです。生命に等級はないのです。コンパニオン・アニマルという概念が定着した現在,犬や猫をはじめ,多くの動物は家族の一員で人間と同じです。まだこのようなことにも気がつかない先生方が数多くおられますが,とくにホリスティックの考え方では,このことは大事なので,人間と動物と分けることなく,記述しています。
次回からは代替医療のそれぞれについて,紹介していきます。


表 代替医療の種類(日本代替・相補・伝統医療連合会議まとめ)

【伝統医学】
漢方薬,鍼・灸,ユナニ(ギリシャ),アーユルヴェーダ(インド),チベット医学,ホメオパシー,自然療法,温泉療法

【手を用いる方法】
マッサージ,指圧,柔道整復,カイロプラクティック,オステオパシー,リフレクソロジー

【ライフスタイル改善,食事療法,ハーブ療法】
ライフスタイル改善,食事療法,ハーブ,アロマテラピー,健康補助食品,水,ビタミン,ミネラル

【心身療法】
精神療法,心理療法,催眠療法,バイオフィードバック,瞑想,カウンセリング,サポート療法,芸術療法,音楽療法

【その他】
磁気療法,気功,ヨガ,その他のエネルギー療法