7) メシマコブの臨床応用例

小動物臨床Vol.103 (1999.07)より転載 宮野のり子

1998年第一回代替医療学会にて

最近、医師の間で作用機序や有効性が明らかになった食品や機器、各種療法などを医療現場に応用しようとする動きが活発化し、代替医療という分野が構築されつつある。代替医療は、アーユルヴェーダなどの伝承医学や鍼灸、指圧などの中国医学、ハーブ療法やアロマテラピー、抗酸化食品や免疫賦活食品の活用など、広範囲に渡っている。自分の健康は自分で守り、病気を予防、治療しようという代替医療は、副作用の心配が無く、人体にもともと備わっている免疫システムを十分に発揮することに主眼を置いている。昨年1121日〜23日に金沢で開催され、医療従事者や一般来場者ら1300名を集めた「第一回日本代替医療学会」では、この免疫システムを高めるメシマコブが注目を集めた。1999年は横浜で開催される。

メシマコブについて

日本原産の薬用きのこ。メシマコブ<phellinuslenteus(Berk'et Curt) - Aoshima>は、タバコウロコタケ科キコブタケ属のきのこで、桑の木に寄生している。長崎県男女群島の女島(メシマ)に野生する桑の幹に野生するきのこであったことから、この名がついたとされている。また漢方では「桑黄(ソウオウ)」と呼ばれ、医薬品に使われており、その効能については『本草綱目』『中薬大辞典』『中国薬用真菌』『東洋医学大辞典』に記載されている。

このメシマコブの薬効に世界で始めて注目したのは、元国立がんセンター研究所の池川哲郎氏と東京大学の柴田承二氏の研究グループだ。1968年国立がんセンター研究所で行われた試験では、マウスに実験用のガンサルコーマ180を移植し、担子菌類や食用菌類の熱水抽出物十数種類を腹部に注射、5週間後のガンの増殖阻止率をみた。その結果、メシマコブは96.7%というきのこでは最も高いガン増殖阻止率を示した。

また1980年代には、西条中央病院(現東広島病院)の山名征三医師が、メシマコブ培養菌糸体の熱水抽出物を使って抗がん作用を確認、エールリッヒ腹水ガン、肝臓ガン、胃ガン、胆管ガン、肺ガン、結腸ガン、直腸ガン、子宮ガンの研究を行った。エールリッヒ腹水ガンのマウスの研究でメシマコブ培養菌糸体の熱水抽出とコントロール(生食水)、カワラタケ(クレスチン)を比較した結果、メシマコブがマウスの延命率、延命日数を著しく高めることがわかっている。

そのほか、ソウル大学薬学部のKim教授や忠南大学薬学部のJung教授、生命工学研究所Yoo教授らによっても、メシマコブのさまざまな抗ガン効果の研究が行われ、臨床試験もなされている。

このような優れた薬効が認められながら、メシマコブが一般に広まらなかったのは、その栽培・培養が難しかったためだが、近年その抗腫瘍効果に注目した()韓国新薬と韓国科学技術省とのG7プロジェクトの約10年にわたる研究によって、培養に成功。メシマコブに少量含まれる抗ガン成分が有効量に達するまでに培養する事に至り、10のグループに分類されるメシマコブの菌株の中から最も強力で人体に無害な抗ガン免疫増強効果を発揮する画期的な物質はPL2・PL5であることもわかった。1993年には、メシマコブ培養菌糸体の熱水抽出物から、制ガン免疫賦活剤「Meshima」を開発、一躍脚光を浴びた。

韓国新薬はこのメシマコブによって優れた工業製品に贈られる「韓国科学技術賞」を1997年に受賞し、個人賞としてもメシマコブの開発に関わった韓国生命工学研究所のYoo博士が受賞している。

メシマコブの作用機序

きのこの多糖体を用いたガン治療には、カワラタケ(クレスチン),シイタケ(レンチナン)がすでに実用化されているが、植物由来の抗ガン性多糖体に共通しているのは、ガン細部に対して直接的な細胞毒ではなく、人間が本来持っている免疫システムを活性化させるということだ。メシマコブには多種類の多糖類、核酸、脂肪酸、アミノ酸、酵素などが含まれている。

現在迄に含まれている作用機序は、マクロファージの活性を介してT細胞を活性化し、インターロイキンを始め多数の免疫活性物質を放出する。メシマコブの培養菌糸体抽出物は、強力な抗ガン免疫増強作用を発揮、免疫機能を担うリンパ球のB細胞やT細胞、NK細胞などの働きを増大させ、サイトカイン産出を高める働きがある。その結果、人体の免疫機能が高まり、抗ガン作用を発揮、ガンに対しては予防効果があるほか、化学療法による副作用を減少させ、手術後に化学療法剤併用することでも抗ガン効果が著しく増強する。いうまでもなく直接生体に使用しても毒性は全くなく、長期間にわたって飲用してもその免疫機能は一定に保たれて低下することはない。また免疫機能そのものを活性化するのみでなく、外部から侵入してきたウイルスなどの抗原を遮断し、さまざまな疾病の予防にもつながる。

メシマコブ商品

日本では遺伝子栄養学研究所で研究がすすめられ、健康食品の新素材と注目されている。

メシマコブは韓国新薬と契約したメシマジャパンが製造、総発売元となりエル・エスコーポレーション、サルデ薬品がPB、OEM供給を行っている。

笙嘉(ショウカ)は調剤薬局、病院への販売を行い、動物病院には、有限会社オンが販売している。(問合わせ03−3405−5277)

症例報告:

1.口腔内の黒色肉腫(ヨークシャーテリア、メス、12歳)

左下顎第一後臼歯の外側歯肉に腫瘍ができる。最初は小指頭大位で歯槽膿漏がひどく、食欲はあるが口腔内の疼痛のために柔らかいものしか食べられず飼い主が与えるとすこしづつ食べる。このような状態で4ヶ月経過後来院する。

体重は、以前3kgあったのが2kg、元気はあるが口腔内検査は嫌がり、腫瘍はこのとき、うずらの卵大で黒色でした。健康検査にて血液一般、生化学、尿検査を実施。軽い僧帽弁閉鎖不全がありました。腫瘍の胸腔、腹腔への転移はハッキリしませんでした。

全身麻酔にて口腔内歯石除去、歯周病治療、抜歯手術、腫瘍のBiopsy検査を行いました。但し、このときは腫瘍に関しては処置はしませんでした。検査の結果は、悪性黒色肉腫でした。

手術後、状態は良く食欲もかなり有り元気でしたが、悪性黒色肉腫のため核酸とメシマコブを与えることとしました。

<投与量:一日>

核酸(ヌクレオエンジェル):2−4粒

メシマコブ:1g

口腔内の腫瘍は大きさはあまり変化はないが、表面は破れ出血がありましたが、最後まで食欲は落ちず、体重は1.95−1.85kgでほとんど生活は普段と変わらず苦しまないで旅立ちました。口腔内手術後4ヶ月頑張れました。

2.口腔内の悪性繊維肉腫(プードル、オス、971月生、8.5歳)

1歳ちょっとで口腔内上顎左前臼歯内側に0.5×0.5cm弱の大きさの腫瘍ができる。動物病院にて腫瘍を切除し、検査結果が繊維肉腫のため数回の放射線治療を受けるが犬の舌、口唇は焼けただれて変形し、食事が食べられない状態になるが、飼い主と犬はこの苦しい治療にがんばった。数ヶ月後焼けたところの傷も回復したが舌と口の変形は残っている。

検査のために再外来するが、2回目の放射線治療をすすめられ前回のあのつらい日々を思い出し飼い主は、代替療法を探し9811月に当院に来院する。飼い主との話合いで制ガン剤、放射線と犬の負担になる療法は止め、副作用の無い治療を希望する為、健康食品を使用する事になりました。

<投与量:一日>

核酸(ヌクレオエンジェル):10−16粒

メシマコブ:1g

半年以上経過後、現在は口腔内の腫瘍の大きさ変化はないが状態は良好で、大好きな飼い主とフリスビーを楽しんでいます。

飼い主曰く:もしも悪性腫瘍が転移しても、今が元気で一日でも多く一緒に走りまわって、自分で食事を食べられれば良いと思うそうです。

3.移行上皮ガン(膀胱)(雑種、オス、14歳、体重15−17kg)

989月血尿続く、体重15kg、近くの動物病院に行く。膀胱の移行上皮ガンのため手術を受ける。動物病院で制ガン剤投与をすすめられるが拒否する。9月よりプロポリス、マイタケは与えていた。991月血尿が診られ動物病院にて再発といわれる。

核酸、メシマコブ投与開始

<投与量:一日>

核酸(エンジェルセブン):10−15粒

メシマコブ:3−4g

プロポリスとマイタケは食事に入れている。

1月から5月までメシマコブを1日4g投与

5月中旬より食欲旺盛、体重増加のためメシマコブ1日3gに下げる。

このラッキー号は1000キロ以上離れたところにいるために診ることが出来ないので、飼い主の話をもとに症例報告をさせて貰いました。現在の状態は元気食欲あり、血尿は最後にほんのちょっとだそうです。名前の通りラッキーな人生を飼い主とともに送っていただきたいと祈っています。

考察

現在ガン治療には、免疫システム増強作用が注目されている中で、メシマコブについて紹介しましたが、韓国では薬品です。日本では健康食品扱いなので私は非常にしやすいと思っています。私どもはメシマにいち早く出会うことができ1年近く使用しています。その中で飼い主と動物の立場に立って考えるとガン・肉腫は完全に治すことは出来なくても、動物に苦痛を与えないでいかに共存し、元気で長生き出来るかだと思っています。

飼い主の多くの言葉の中で動物病院の先生が、大事な家族の一員に「もうこれ以上治療方法が無い。」と言われた時飼い主はどうするか?考えた事がありますか?

友達に相談する人、インターネットをみる人、違う動物病院に行く人とそれぞれですが、半分以上の顧客はその病院を去ります。いろいろな情報があふれている時代です。

我々、獣医師は最後まで飼い主の気持ちを大事に考え一緒に立ち向かわないといけないと思っています。

謝辞:

池川哲郎博士(元金沢大学教授)、ライフサイエンス研究所、韓国国立生命工学研究所Yoo博士に深謝します。