栄養因子としての核酸
平成10年 獣医東洋医学研究会発表
哺乳類は動植物を食べ、その中の細胞に含まれる核酸を摂取してきたが、核酸は組織に取り込まれず排泄されるので、多くの研究者に栄養的意味は無いとされていた。しかしながら近年では第7番目の必須栄養素として注目されている。最近の研究で脳神経系細胞増殖が盛んな骨髄、消化管、皮膚、生殖器などではヌクレオチドを新規に合成(denovo 合成)する能力が低く、しかも大量のエネルギーを消費するので食事性のヌクレオチドを利用して核酸を合成(salvage合成)せざるを得ない事が判明した。
さらに、ラット肝細胞の核内ヌクレオチド研究の月齢変化においても、老化に伴い肝機能が衰えてヌクレオチドdenovo合成能が低下する事が明らかになった。 経口摂取された核酸は胃腸から4時間以内で90%以上がヌクレオチドの形で吸収されることも分かっている。
特に役割が明確になったのは、母乳と乳児用調整粉乳ではヌクレオチド組成が違っているため、母乳並の各種ヌクレオチドを添加した多くの研究が行われ、日本でも1996年乳業メーカーより核酸を添加した乳児用調整粉乳が発売されている。(世界101番目の国です。)
もう一つ明確になった研究は、消化器疾患に用いられる完全静脈栄養法(TPN)を使用した患者に腸粘膜萎縮や免疫力の衰えが生じるのは、核酸の未摂取に原因がある事がわかり、TPNに核酸関連物質を添加した物が作られ効果をあげている。
外因性ヌクレオチドによるガン細胞の増殖抑制効果
外因性ヌクレオチドによる代謝拮抗性抗ガン剤の副作用の軽減
外因性ヌクレオチドが正常細胞である小腸上皮細胞のアポトーシスをP53依存系経路で誘導する結果、過去20年の研究で外因性ヌクレオチドがガン細胞の増殖抑制効果をもつとか、代謝拮抗性抗ガン剤の副作用を軽減するとの報告は多い。作用機序に関しては明確では無いが、多くの研究者は外因性ヌクレオチドとガンの関係をアポトーシスの観点で考察している。
臨床応用研究
上記の研究結果にもとづいて動物用核酸健康食品を臨床に応用した。
1.材料と方法
材料:DNA(北海道の川を遡上する寸前の純度の高い(アミノ酸バランス)サケの白子)及びRNA(ビール酵母エキス)からなる動物用健康補助食品であるヌクレオエンジェルを使用する。
方法:投与は粒のまま、または粉にして食事と一緒に2回に分けて食べさせる。
投与量:基本の目安は、一日量として以下の通り。
小動物 | 2粒 |
猫、小型犬 | 4粒 |
中型犬 | 4−8粒 |
大型犬 | 8−12粒 |
2.成績
各疾患別に特に効果のあった症例を表にした。
症例 | 種類、年齢、雌雄 | 投与量(粒/日) | 期間 | 効果 |
1.血管肉腫 | 柴犬、
5歳、♂ |
10 | 5ヶ月 | 有り、死亡 |
2.乳腺腫瘍
手術 |
雑種犬、
12歳、♀ |
10−20 | 24ヶ月 | 有り |
3. 乳腺腫瘍 | 日本猫、8歳、♀ | 6−8 | 10ヶ月 | 有り |
4. 乳腺腫瘍 | アビシニアン、
13歳、♀ |
10−20 | 18ヶ月 | 有り |
5. FIP抗体価
256倍陽性 |
スコテッシュホールド、
4ヶ月、♂ |
6−8 | 8ヶ月 | 有り |
6. FIP抗体価
1024倍陽性 |
日本猫、
10ヶ月、♂ |
2 | 6ヶ月 | 無し、死亡 |
7.皮膚炎 | ポメラニアン
3歳、♂ |
4−6 | 18ヶ月 | 有り |
8.皮膚炎 | 柴犬
8歳、♀ |
6−10 | 10ヶ月 | 有り |
9.アレルギー
性皮膚炎 |
ゴールデン
4ヶ月、♂ |
10−14 | 18ヶ月 | 有り |
10.急性腸炎 | 日本猫
生後2日、♂ |
2−4−6 | 5.5
ヶ月 |
有り |
11.肝機能
低下 |
シーズー、9歳、♀(避妊済み) | 4−6 | 18ヶ月 | 有り |
12.精子減少 | シェルティ、
3歳、♂ |
10−20 | 2ヶ月 | 有り |
13.妊娠 | ポメラニアン、
1.5歳、♀ |
4−6 | 2.5
ヶ月 |
有り |
3.結果と考察
症例1 他院で治療血管肉腫で腹水、胸水が貯まって食欲が殆ど無い状態で核酸投与始まる。2週間で腹水が少なくなり、3週間で胸水もほとんどなくなり呼吸が楽になり食欲もでる。その後繰り返すが5ヶ月生存出来、死ぬ前日まで食欲はあった。
症例2 乳腺腫瘍が出来て3年後手術、その後肺転移あり、術後から核酸投与開始9ヶ月で肺転移なくなる。その後3年間大丈夫。現在音信不通。
症例3、4 乳腺腫瘍の内科的治療に核酸投与。腫瘍の大きさが小さくなり維持出来ている。
症例5、6 同居猫、FIP抗体価256倍と1024倍陽性だが、核酸投与が上手に出来た猫は生存しているが、だめな猫は発生して死亡。
症例7-9 皮膚炎で、発赤、脱毛、かゆみがある場合。核酸中心に、オメガ3、6、ビタミンEを使用すると、90%以上に改善がみられる。期間は2週間でワンクールとする。
症例10 新生児でまだへその緒がついている猫は、粉ミルクと核酸を一緒に与えると免疫力は向上し、離乳は簡単。
症例11 肝機能低下で食欲不振、軟便、倦怠感がある場合。核酸投与で85%以上食欲改善、便が固まり、元気が良くなる。
症例12 アメリカ産で日本にきたら急に種オスとして使えず精子減退症になる。ホルモン療法を行うとその時だけ改善されるが継続はしない。このような症例に核酸投与すると90%以上クリアできる。
症例13 お産の前より難産の可能性の有る犬に使用した。子供も成長は良いし安産だった。
以上の臨床症例に、多くの研究結果とほぼ同じ成績がみられた。すべてに効果が期待できるわけではないが、当院では飼い主の了解と協力をお願いして、治療の基本に核酸栄養療法を中心に行っている。また、新しい家族の一員としての出会いがある時は予防医学を考え、健康維持のために必ず核酸投与を薦めている。我々は今後21世紀に向かい治療医学よりも予防医学の立場で核酸の必要性を考えている。
謝辞:ご指導、ご助言いただいた九州大学医学部第一生理学の高木厚司博士、滋賀医科大学解剖学の山本寛博士に深謝いたします。
参考文献
1)松永政司、森重福美、JJPEN、15 1283−1291(1993)
2)松永政司、食品と開発、29、15−17(1994)
3)松永政司、Fragrance Jouenal、22107−112(1995)
4)松永政司、Fragrance Jouenal SpecialIssure、15 179−187(1996)
5)木本栄治、ヌクレオチドの分子栄養学、開成出版、(1997)
6)木本栄治、ヌクレオプロタミンの栄養科学、開成出版、(1998)
7)田沼靖一、アポトーシス、東京大学出版会(1996)
8)飯島正平、JJPEN、15 1311−1319(1993)
9)Tanaka M、 J,Nutr,126、424−433(1996)
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11)Usami M,adv,Med,Biol.,370131−134(1995)
12)松永政司、Fragrance Jouenal6月号 別冊 (1996)
13)松永政司、宇住晃治、山本寛、高木厚司、マウス発育期の経口核酸食が生体防御に果たす役割第一回日本代替医療学会(11月
1998)