3) 老齢犬及び老齢猫における核酸(ヌクレオエンジェル)療法の効果
小動物臨床Vol.16 No.6
(1997.11)より転載
花田 道子、宮野のり子
はじめに
近年、人間の高齢化社会が問題視されると同時に犬猫の平均寿命も伸びてきている。 しかしいくら彼らが長生きになったとはいえヒトの寿命に比べれば短く、飼い主の大部分は家族の一員として老齢犬、
老齢猫の世話をし、最後をみとることになる。
そこで我々は動物たちが少しでも長く健康で健やかな老齢期を過ごせるように、そしてターミナルケアに対する飼い主の負担(金銭的、精神的)を軽くする方法の一端として核酸療法を勧めてきた。 今回ここに核酸療法を実施した老齢犬、老齢猫の一部を報告し飼い主の声も紹介してみたい。
1.対象症例
老齢犬、老齢猫として抜粋したのは大型犬の一例を除き、死亡例は死亡時10歳以上、生存例は1997年9月現在10歳以上のものである。これらをA−T群:老齢犬死亡例、 A−U群:老齢猫死亡例、 B−T群:老齢犬生存例、 B−U群:老齢猫生存例に分類し、表にまとめ掲載した。 いずれの例も老齢化に伴う症状(加齢性変化)が多かれ少なかれ見られたが、特記すべきものを既往症とし、それに対する併用療法も表のとうりである。なお、使用した核酸は前回までと同様の成分のヌクレオエンジェル〔総発売元(有)オン〕である。
2.加齢性の変化(症状)
- 被毛・・・失沢、脱毛、毛並みがまばらになる、白髪が混じる。
- 皮膚・・・弾力性の低下(シワ)、保湿性の低下(乾燥、フケ)、抵抗力の低下(体臭)、新陳代謝の低下(シミ)。
- 五感の変化・・・視力低下(白内障、緑内障)、聴力の低下、嗅覚の低下(慢性鼻炎)など。
- 口腔内疾患・・・口内炎、多量の歯石付着、歯肉炎、歯肉腫、歯牙欠損など。
- 排泄障害・・・頻尿や尿失禁、便秘、排便困難、下痢(失禁状態のこともある)。
- 骨障害・・・椎間板ヘルニア、DISK形成(運動障害)骨の脆弱化(骨折)。
- いわゆるボケの症状・・・一方向への旋回運動、昼夜の逆転、食欲の異常亢進など。
3.核酸(ヌクレオエンジェル)療法の効果
<死亡例の共通点>
- 最後までボケの症状は見られなかった。
- 寝たきりにならないか、なっても数日間。
- 食餌の量は減少しても食欲は死亡前日から2、3日前まで健在。
- ポックリ死(呼吸停止と心停止がほぼ同時)。
<飼い主の声>
大部分の方は『あっけないような最後だったけど、今思えば親孝行な(精神的にも、金銭的にも)仔だった』という。
- A−T群症例8:投与1週間後から毛が生えだし、体臭もほとんど消えた。 最後はふわふわのプードルの姿で天国へ送れて良かった。
- A−T群症例18:胸水、腹水が少なくなり、一時はとても良い状態だったのに、途中で少しの間投与を中断したために悪化。あわてて増量して投与したところ、かなり回復し死ぬ前日まで食欲旺盛だったのに残念だ。
- A−U群症例2:高齢になってから乳腺癌を取ったのに、核酸投与後の若返りと延命効果にびっくり。
- A−U群症例4:歯肉腫が口の中の半分を占めても食欲があるのが救いだった。
<生存例の共通点>
- 犬では心疾患と消化器障害、猫では乳腺腫瘍と腎疾患を既往症とするものが多いが、ともに小康状態を保っている。
- 食欲旺盛(消化器障害の改善)、被毛の状態良好、若返った外見と動作が見られる。
- 温存している猫の乳腺腫瘍は消失しないものの、数、大きさ共にほとんど変化が見られない。
<飼い主の声>
- B−T群症例1:下痢症も治り、毛つやも良く黒々としていて、16歳とは見えないと言われるのがうれしい。
- B−T群症例5:顔に白髪が混じってきて、咳も時々ひどい時があるが、調子の良いときは後肢が不自由にもかかわらず、猫を追いかける事もある。兄弟はすでに亡くなってしまったけれど、がんばって長生きして欲しい。
- B−T群症例14、15:10歳になったのでそろそろ老犬病対策にと思って食べさせている。食欲があるのでフードと一緒にポリポリ食べている。最近はテンカン発作も起こさなくなった(症例14)。
- B−U群症例1:歯肉炎から顔半分が腫れ上がり食欲もなくなってもうだめかと思ったけれど、抜歯・治療後また元どうりの気丈な猫に。回復力(治癒力)に驚く。
- B−U群症例5、8:(A−U群症例2、6と同じ飼い主)死んだ仔達は乳癌が大きくなってから手術したにもかかわらず核酸で延命できた。生きているこの2頭にもできる限り核酸を食べさせて長生きさせたい。
まとめ
老齢犬、老齢猫に核酸療法を実施した結果、全症例とも実際の年齢より若く見えるようになり、食欲の衰えも見られなかった。すなわち外見上では毛つやが良くなり脱毛も少なくなった。ボケの症状も殆ど見られなかった。内臓器官も回復ないし順調で、生存例では好転または現状維持、死亡例では天寿を全うしたとの感があった。そこでこれらの症例にあてはめて「老化を防止する核酸の働き」を以下にまとめてみる。
T.新陳代謝(細胞分裂)の促進
- 育毛(脱毛の回復、涙焼けの消失)
- 皮膚及び粘膜の抵抗力の増加(体臭及びシミ(老人斑)の消失、口内炎の軽減・治癒)
- 腸絨毛の活性化(下痢症の改善)
- 治癒力の増加(創傷・骨折・歯肉炎の治癒)
- 骨髄造血機能の亢進(貧血の改善)
U.血流の改善
- 心臓病(心肥大・僧帽弁閉鎖不全等)、肝障害、脳障害(テンカン・ボケ)の改善
V.抗酸化作用
- 白内障の改善(活性酸素による水晶体DNAの損傷の回復)
- 腫瘍(癌)化の抑制(活性酸素による遺伝子の損傷を抑え、修復)
W.脂質吸収の遅延
- 成人病(肥満・糖尿病・高脂血症等)の予防
考 察
老齢動物の飼い主にはいわゆる薬ではなく核酸を、身体の機能を高めるための栄養補助食品として、気負わず、気楽に、そして気長に与えてもらうことが大切である。一般に犬は直接経口投与や食餌に混ぜて与えるという方法でうまくいくが、猫には難しいようである。
核酸の効果は理解できてもうまく投与できない、注射できればいいのに、という声も聞かれるので、一日も早くDNAの医薬品として認可される事が望まれる。事実医薬品として認可されている中国およびフランスではDNAの適応症の中に、老齢に関しては老人性衰弱、心筋梗塞、貧血、歯肉炎、骨疾患などが入っている。日本でも医薬品として認可されているRNA(ビール酵母)の適応症の中には胃腸及び肝の機能改善、白内障、頭の老化防止などがあげられている。しかし老化現象が見られてから防止策を講じるよりも若い内から、健康維持のため、ストレスから各個の遺伝子を守るため、老化の予防のため、に核酸療法が勧められたら、動物たちともっと楽しく長い付き合いが出来るのではないだろうか。
A−T群:老齢犬 死亡例 を見る。
B−T群:老齢犬 生存例 を見る。
A−U群:老齢猫 死亡例 を見る。
B−U群:老齢猫 生存例
を見る。