1) 核酸(ヌクレオエンジェル)のイヌにおける肝機能改善効果

小動物臨床Vol.16No.2 (1997.3)より転載花田 道子、宮野のり子

はじめに

近年、遺伝子栄養学の立場から、DNAは必須栄養素の一つとして注目されてきている。DNAは新陳代謝を活発にし、遺伝子を修復することで、病気や老化を防ぐ作用が考えられている事から、DNAを主体とする核酸食品を摂取することにより、免疫力の低下防止やガン治療の補助、肝機能の改善に利用する研究も進められている

DNAを応用した治療に関する報告によると、中国では、ヒトの分野であるが、肝炎、急性心筋梗塞、貧血、栄養不良、放射線障害、および老人性衰弱などに、フランスでは、各種骨疾患、代謝不良、貧血および白血球減少症をはじめとする様々な症状に対し、すでに薬物として応用されてきているさらにガン患者の治療補助に関しても欧米諸国を中心に活発な研究が進められているRNAを含んでいるビール酵母は、すでに医薬品として認可されており、いずれDNAも医薬品として実用化されるであろう。

この事から著者らは、栄養補助あるいは治療補助としての核酸の作用に関心を持ち、いくつかの疾患に対して核酸を応用してきた。

今回、外来疾病でも比較的多くの発現が見られた肝機能障害のイヌに対して核酸(ヌクレオエンジェル)の適用を試みたので、その概要を報告する

方法

1.供試核酸

ヌクレオエンジェルはサケ白子エキス、ビール酵母エキス、ビタミンCを主成分とし、そのほかにビタミンA,D,B1,B2,B6,B12、ナイアシン、パントテン酸、および葉酸を含む核酸栄養補助食品である。(表1)また、日本の食品中の核酸含有量を測定したところ、特に、生のサケ白子には核酸が約10g/100gと非常に多いという結果が得られている。

表1 ヌクレオエンジェルの成分(3粒中)
サケ白子エキス

DNA

プロタミン

330mg

約100mg

約200mg

酵母エキス

RNA

60mg

約40mg

<その他>ビタミンA,D,C、B1,B2,B6,B12,

ナイアシンアミド、葉酸、カルシウム、

パントテン酸カルシウム

2.供試症例

今回供試症例として選択した10例のイヌは、いずれも肝機能障害の見られたものである症例No.1〜10の犬種、年齢、性別、投与開始時および治療後の体重は表2のとうりである。各症例の概略は次のとうりである。

No.1;生まれつき下痢しやすく、食欲にむらがあり、しばしば嘔吐も見られ、漢方薬を服用

No.2;交通事故による骨盤骨折直後より下痢、嘔吐が見られた骨の修復と肝機能改善のため、プロテインを併用。

No.3;虚弱体質で疲れやすく、食も細いGPTは常に170U/L前後のため漢方薬を服用。

No.4;肝機能低下の他、気管虚脱と心肥大が見られ漢方薬および心疾患治療薬も服用。

No.5;No.3の母親仔同様食が細い上、心肥大でGPTおよびBUNも常に高値(それぞれ171U/L,40〜80mg/dL)。漢方薬に心疾患治療薬および利尿薬を併用。

No.6;容易に下痢、嘔吐、食欲不振となり、肝および膵疾患のため漢方薬と膵疾患治療薬を服用。加齢とともに食糞症状出現。

No.7;尿結石(Ca-axalate)による排尿障害のため手術術後も容易に結晶による排尿困難となりコントロールが難しい。前肢神経麻痺に対しては電気治療および鍼治療を施し、前立腺肥大治療薬も服用。また常にGPTが高値を示すため漢方薬を服用。

No.8;下痢しやすく、GPTが高値および尿中に結晶(struvite)が出やすいため漢方薬を服用。心肥大に対しても治療薬を投与

No.9;下痢嘔吐食欲の起伏が激しくGPTも常に高値を示すため漢方薬を服用。肛門周囲腺腫の治療目的で去勢手術実施。

No.10;下痢、便秘を繰り返し、食欲にも波がある。老齢で肝機能低下がある事から漢方薬を服用。

表2 供試症例
No.
犬種
年齢
性別
開始時体重
(kg)
治療後体重
(kg)
1
Yorkshire Terrier
6
M
2.0
1.95
2
Miniature Schnauzer
8
M
6.8
6.55
3
Shih Tzu
10
F-s
4.8
5.35
4
Maltese
12
M-c
3.0
2.50
5
Shih Tzu
12
F-s
4.8
4.35
6
Chihuahua
13
M
2.0
1.40
7
Chihuahua
14
M
2.8
2.05
8
Maltese
14
F-s
6.0
5.95
9
Shih Tzu
15
M-c
6.8
6.05
10
Shih Tzu
16
F
5.0
5.55

M:Male、M−c:castrated,F:Female,F−s:spayed

3.実施方法

以上の症例に対し、表3に示す通りヌクレオエンジェルを1〜2粒ずつ1日2回、食餌と共に10〜25ケ月に渡って与えた。各症例とも外来患者である事から肝機能改善に関与する漢方薬以外は従来通りの薬を併用した肝機能改善の指標としては、臨床症状に加え、ヌクレオエンジェルを与え始めた時点(一部は開始前)と、その後の来院時に体重、体温、脈拍等の一般身体検査、CBC血液生化学検査(GOT,GPT,ALP,コリンエステラーゼ、血清蛋白分画)および尿検査(ディップスティック、尿比重、尿沈渣)などの各種パラメーターについて検討した

表3REGIMEN
No. Number of tabs(b.i.d) Duration of Treatment(months)
1
2
20
2
2
10
3
2
25
4
2
25
5
2
25
6
1
21
7
2
23
8
2
22
9
2
25
10
2
21

飼主によれば、どの症例も決められた量を食餌とともに良く食べたとのことからもヌクレオエンジェルは嗜好性が良好である事が分かったまた、与え始めてから早い例では1ヶ月後、遅くとも6ヶ月当たりから下痢、嘔吐、食欲不振、疲れやすい、元気がないといった臨床症状が軽減し、最近では全例とも改善されている

一般身体検査、血液検査および尿検査結果のうち、今回数値として追えるという点で焦点を当てた肝機能検査結果は、表4に示す通りであるヌクレオエンジェルを与える前のものと治療後の値を比較すると、10例中8例に肝機能の改善効果が見られた

表4 肝機能検査結果
No
GOT(U/L)
GPT(U/L)
ALP(U/L)
before
after
before
after
before
after
1
188
65
445
148
102
75
2
103
24
156
37
417
64
3
39
34
170
95
1266
699
4
66
52
90
48
220
116
5
36
31
171
82
70
60
6
48
45
50
39
244
185
7
33
18
204
60
560
636
8
21
26
116
71
1567
945
9
31
21
161
49
>3000
1322
10
38
31
161
119
297
186

以上の結果から、数値の上では10例中8例に効果がみられ、2例には良い結果が得られなかった後者については、No.6はアミラーゼおよびリパーゼの値が高く、膵からくる吸収不良症候群のため、No.10は高齢のため吸収能および合成能の低下が示唆されたが、臨床的には現状維持の効果はあるものと思われた飼い主の方々が、ここまで協力してくれたのも、この結果に気づいたからであろう。

著者らは今後の課題として核酸(ヌクレオエンジェル)と食餌との関連性を考慮し、ヒトと同様に栄養補助食品として取り入れることを勧めて行きたい。又21世紀の将来に向けて、治療医学より予防医学の立場としての核酸の応用を考えている。